大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)641号 判決 1963年11月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石田寅雄、同田口尚真の上告理由第一点について。

論旨は、原判決が住所の認定には定住の意思は関係がないと判示したことが判例に違背する、という。

しかし、所論摘録にかかる原判決(その引用する第一審判決)の判示は、住所の認定は生活の実質的関係に基づいて具体的にこれをなすべく、形式的標準に従い画一的になすべきではないとの判旨であつて、所論のごとく定住の意思が住所の認定に無関係であるとした趣旨とは解されない。

論旨は、原判決を正解しないで所論の違法をいうに過ぎないものであり、採用の限りでない。

同第二点について。

論旨は、原判決には自作農創設特別措置法三条一項一号の規定する住所の解釈を誤つた違法がある、という。

原判決(その引用する第一審判決、以下同じ。)の確定した事実によれば、上告人は、もと千葉県東葛飾郡南行徳町押切七番地に本籍を有し、同所において風呂屋兼農業を営んでいる父喜太郎や長兄久左衛門らの家族とともに暮らしていたが、昭和一九年頃右喜太郎からその所有にかかる本件土地を含む財産の贈与を受け、昭和二二年一月二八日本件土地の所在する同郡行徳町伊勢宿の三一番地真上祐蔵方に分家し、その後同年三月一一日武次と養子縁組をなし、同月一九日本件土地の一部を留保して隠居し、さらに同月二六日伊勢宿五番地山辺ふじ方に分家したが、依然本家にあつて風呂屋の手伝いをして生活し、本件土地も本家において管理耕作していたというのである。然らば、原判決が右の事実とその他認定にかかる諸般の事実に基づき、本件買収計画の樹立された昭和二二年六月一四日当時における上告人の住所が右伊勢宿にはなくして本家の押切七番地にあつたものと認めたことは、違法ではないといわなければならない。もつとも、上告人が前叙のごとく伊勢宿に本籍を移したほか、伊勢宿の真上方、山辺方および同所五二番地梅沢竹松方へそれぞれ転居した旨の届出をなし、同所において、供出米を納付し、生活必需品の配給を受け、また公租公課等を負担していたことは、原判決の確定するところであるけれども、これらの事実は、当然にその地をもつて所論法条の住所と推断せしむべきものではないから、右認定を妨げる資料ということはできない。

されば、原判決には所論の違法はなく、論旨は、所詮原判決が適法にした事実の認定を非難するだけのものであつて、理由がない。

同第三点について。

論旨は、本件農地は自作農創設特別措置法三条一号にいう準区域に所在するものであると主張し、そのことを前提として、原判決には同法条の解釈を誤まり、判断を遺脱した違法がある、という。

しかし、所論事実は原審において上告人の主張しなかつたところであるから、論旨は、その前提を欠くに帰し、採用の限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例